みぞろ池灸院は昭和3年に京都市中心部で開業しました。現在の深泥池に移り灸治療に特化するようになったのが昭和5年(1930)。上の写真は昭和8年ごろの様子だと聞いています。当時子供に多い喘息、疳虫、ひきつけや結核等の治療を中心に行っていたそうです。小児には弱い刺激で十分有効で、出来るかぎり小さく又皮膚に達する前に火を消す7分灸が中心だったそうです。
昔の「お灸はできるだけ大きな艾(もぐさ)で熱さを我慢するから効く」、「按摩は強く揉まないと治らない」というような強い刺激が良く効くと信じる人が多かった時に、弊院ではできるだけ小さく、また、感じられる最小の刺激で更に苦痛を伴わないものが治病には有効であると長年の経験から生み出した手技を利用してきました。
生理学者等の現在の科学では、自律神経系では病気からの回復には副交感神経の働きで分泌されるホルモンが主に作用するために癒しが必要なことなどが判っています。
当時は経験豊かな治療師が微弱刺激をすることが多かったのですが、それは経験の結果ともいえましょう。
弊院の先代である阪村義一(明治40年~昭和47年)は経験で知った微弱刺激手法からマグレインのようなテープで固定する治療具の有効性に着目して商品化したのです。
当時は我々開発側の人間もマグレインの作用、効能に懐疑的な部分が多くありました。その後、顧客様の反応やその裏付けについては「皮膚知覚」「刺激伝達のメカニズム」「神経根や脊髄や中枢・脳の働き」との関連性についての研究や実験からマグレインには意外に多くの長所があることが判ってきました。
1)鎮痛や凝り緩解といった一儀的な作用には強い刺激が有効です。
2)治病、体質改善や体調調整には弱く、苦痛を伴わない刺激が適します。
昭和33年(1958)頃になって皮内針や金磁気粒の刺入や貼付治療から更に症状による作用差を克服するために粒子の大きさ、金属の種類による作用差や製造の仕易さ(低価格化)等の研究結果として、まずは凝りや痛みを和らげ、自己治癒力に働きかけるマグレインNを量産しました。
来院の患者用に使用していたマグレインを、持ち帰り自分で貼りたいという患者さんが出てきました。そうすると次は、マグレインの噂を聞きつけた人から、どこでマグレインを購入できるのかといった問い合わせが増えました。当院だけでは遠方の患者さんに対応するのは難しいと、知り合いの鍼灸院に話したところ、快く扱っていただけるようになりました。幸いなことに、患者さんの評判がよく、来院回数も増えたと感謝の声を頂戴するようになりました。マグレインの効果を改めて実感することになりました。
一部では「マグレインで治療ができるのなら、うちの鍼灸院は必要ないのか」と最初は怪訝そうに手をこまねいていた人もおりました。しかし、「マグレインを使用することで患者さんの満足度が上った結果、いままで以上に信頼を寄せていただけるようになり治療がやりやすくなった」、「通院の頻度が上がったし、販売による利益も向上した」という他の治療院の繁盛ぶりを目にして、だんだんと、マグレインへの理解が広まっていきました。鍼灸院とお客様とをつなぐ橋渡し的な役割としてマグレインを使っていただける鍼灸院が増えてきました。
来院の患者さん用の持ち帰りから始まったマグレインは、鍼灸院での取引実績によって、さらに信頼度は高まりました。
いよいよマグレインが一般の方に知られるようになってきたことで、昭和43年(1968)になって日本(世界)で始めての貼付型の針代用具の厚生労働省の承認申請から製造許可と承認を得て販売をすることになりました。
そうこうしているうちに、東洋療法研修試験財団の教科書にマグレインを粒針として正式に掲載していただくようになりました。東洋療法研修試験財団は鍼灸師の国家試験を実施する厚生労働省所管の公益財団法人でしたので、治療法、用具として業界で地位を得たことにもなるのではと安堵しました。
順風満帆のように聞こえるかもしれませんが、困ったこともたくさんありました。先ずマグレインがどうして効果があるのかといったことに対する回答に窮することもありました。現在では神経科学や分子生理学が飛躍的に発達しましたので、鍼灸をプラセボ(偽薬)効果の一種だと見下す科学者も今はいません。なぜならば、プラセボ効果を単に“暗示”だと片付けるほうが非科学的だと思われるようになったからです。
開発当時からマグレインが唱えていた「皮膚刺激治療」も神経科学の発達にともなって、ずいぶんと証明が進みました。これらも、日本鍼灸学会をはじめとする多くの科学者の研究の賜物と感謝しています。まだまだ、体表等の知覚への刺激が及ぼす作用については研究の余地が多く残されています。
更に近年には欧米の鍼灸の専門家でない研究者の「ハリの作用について」の論文発表が散見されるようになりました。
そのほとんどが、「ハリはプラセボ効果以上ではない」というマイナス結果がほとんどです。これらには次の点が欠落していました。
1)プラセボ対象として皮膚面刺激をしている
刺鍼の仕様は症状によって知覚刺激と体内での作用があり、鎮痛作用等は最も敏感な皮膚表面の体壁部の知覚であり、比較にならず両者ともに作用がある。
2)実験対象者の多くが健常者で内蔵体壁反射で感受性が増した鍼灸師が最も重視する反応点を見落としている。
これらのことから皮膚の知覚が刺激治療の最初の受容器であることの証明にもなりマグレインにはプラス材料ではあるが、刺針による作用特性、人体の知覚部位差や伝達路その他、より高度の研究発表が待たれます。
今以上にマグレインの作用を高めて、多くの方々の健康に携われることを喜びとしてますます邁進したいと願っております